私がサラリーマンとして働き始めて早10年、1年の殆どを仕事に追われて生活しています。
しかしどんなに働いてもお金はなかなか貯まらず、残りの人生も社畜として過ごしていくことは避けられません。
所詮は有象無象のサラリーマンの一人というわけです。
友人と集まっての歓談も最後には「何故我々の実家は地主では無いのか……」という夢物語、いや妄想で話が閉じられる。 株で一儲けしようにも株なんてものは明日上がるか下がるかの丁半博打、博打で勝てれば苦労はしない。 株価の操作をすることは理論的には出来るが、それは犯罪だ。捕まる……
いやでも何とかして株価を操作して爆儲けする気分だけでも味わいたい……
そんな時に株価の操作が合法的にできた時代の儲けっぷりを味あわせてくれるのが「大暴落1929」です!
この本は第二次世界大戦につながる1929年に始まる世界恐慌、そのきっかけとなったアメリカのウォール街大暴落の前後でどんなことが起きたか、そしてその時の雰囲気を教えてくれる本です。
作者はジョン・ケネス・ガルブレイスというカナダの経済学者ですが、こういう本にありがちな小難しい経済理論を語る本ではありません。何故バブルが弾けたかでは無く、どういった出来事が起きたかに焦点が当てられています。
様々なエピソードが出てくるため、人によって面白いと思う箇所が違いそうな本かなと思います。
私が面白いなと思ったのは、今の日本でやったら即逮捕!な儲け方をしている人たちが出てくることです。
というわけで今回は本の中で出てくる相場操縦とインサイダー取引について紹介します。
相場操縦で儲ける
相場操縦というのは名前から想像できるように株式市場の相場、つまり価格を操作することです。
分かり易い例としては自分が買った株の価格が高くなるように操作した後に売り抜けると儲けることが出来ます。
勿論こんなことをやったら重罪です。
今日本でやったら10年以下の拘禁と3千万円以下の罰金が課されます。
最近だと2021年にSMBC日興証券が相場操縦を行い、会社に対しては罰金7億円、追徴金約44億7千万円、当時の執行役員や部長が執行猶予付きの懲役2年になったりしています。
しかし当時のアメリカに相場操縦を戒める法律なんてありません。
本によると当時一般的に行われていた相場操縦の手法は次のようなものだったそうです。
- ある株の価格を釣り上げる目的で徒党を組み、資金をプールする
- 資金を管理するプールマネージャがプールした資金を使って多額の株を買っていく
- 多額の購入で値上がりした株価を見た人々が関心を持ち始めて、更に売買が活発になる
- 株式新聞や市場の評論家が面白い事になってきたと煽る
- 煽りに釣られた個人投資家が買い始め、放っておいても株価が上がるようになっていく
- このタイミングでプールマネージャは株を売り抜けて仲間と利益を山分けにする
こんなあからさまなことを今やったら一発で逮捕!……なのだろうけれど、どうもこんなことは頻繁に行われていたようです。
本によると証券会社も加担して100銘柄以上の株価が相場操縦の標的にされていました。
加えて証券会社は顧客にただ株価の動きを伝えるだけではなく、この後この株に「仕掛けが入る」、つまり相場操縦で株価が上がるということをその内容の真偽は不明ですが伝えていたようです。
SMBC日興証券もこの時代なら起訴されずに済んだのに……
インサイダー取引で儲ける
インサイダー取引とは企業の内部情報を使って有利な取引をするものです。
広く開かれている株式市場に於いて、一般に公開されていない情報を使って取引をするのはズルだから許さないぞ、というのがその趣旨です。
これも勿論今日では重罪です。
日本でインサイダー取引を行うと5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金になります。 こちらも相場操縦と同じく、当時行われていたことが本で紹介されています。
チェース・ナショナル・バンク(現在のJPモルガン・チェース銀行)の社長、会長、経営委員会の長を歴任したアルバート・H・ウィギンは、自分の経営する銀行の経営状況が悪いという内部情報を知りながら4万2506株を空売りしました。*1
(空売りに詳しくない人のために補足すると、空売りというのは株が値下がりすること見込んだ時に稼ぐための方法である。他の人から株を借りてきて市場で売り、株価が下がったところで安く買い直して借りた人に株を返す。)
この結果ウィギンはなんと400万8538ドルもの金額を儲けました。
と、言われてもパット見だと当時の400万ドルがどれくらいになるか分かりづらいと思うので、現在の物価に換算すると、7500万ドル、日本円換算で117億円(!)になります。 *2
いやー、インサイダー取引美味しいですね。
合法的に出来るならやりたいものです。
歴史は繰り返す
今回この本を読んで思ったのは月並みですが、歴史は繰り返すということです。
最初に「相場操縦もインサイダー取引も今の日本でやったら即逮捕!」ということを書きましたが、規制の対象になっていない市場では今でも横行しています。
分かり易い例で行くとこの10年の仮想通貨ですね。
流石にこの数年で規制が強まって来てはいますが、少し前までは「今度出るこの新しいトークン(仮想通貨)は儲かるぞ!」という噂を流して、個人投資家が群がって高い初値がついたところでトークンの発行者が大量に売り抜けた事例は枚挙に暇がありません。
有名なところだと2017年に発行されたガクトトークンことSPINDLEがありますし、発行までには至っていませんがが今年2026年に話題になったサナエトークンも発行されていれば良い事例になったでしょう。
また、この様な事例は金融市場に限りません。
卑近な例で行くと、不動産の契約があります。
家を買う/借りる時に「他の人の申し込みが入りそうなので直ぐ申し込まないと」と実際には他の人なんていないのに営業員が決断を急かして来ることがあります。
これは一般人には不動産の相場感が分からないので、多少高値でも押せば買ってくれるだろうという情報の非対称性を用いたインサイダー取引の一種と見做すことも出来ます。
他にもいわゆる転売ヤーの買い占めによる価格吊り上げも、相場操縦の一つと見做すことが出来ます。
この様に過去のバブルで何が起きたかを知ることで、眼の前の儲け話に踊らされないで、一歩引いた目で見れるようにしてくれる本、それが「大暴落1929」です。
*1:(ウィギンが銀行の経営状況を良くないことを理由に空売りをしたことは本では直接言及されていない。http://yumeno15.web.fc2.com/blog/kyoukou_add.pdfを参照のこと)
*2:合衆国労働統計局のデータを元に計算 https://www.minneapolisfed.org/about-us/monetary-policy/inflation-calculator/consumer-price-index-1913-
